「同じ」は同じではない【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第28回
森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第28回
【同じになりたい症候群】
どこの国の人なのかを気にするくらいなら、みんなを地球人だと考える方が平和的なのではないか(地球人よりも宇宙人だと考える方がより平和的だが)。それなのに、国籍を気にする、出身地を気にする、宗教を気にする。人種や血筋や性別や年齢を気にする、さらには、出身校や派閥を気にして、「同じ」か「違う」かを判別するのは何故なのか?
それは、群れを形成したい本能によるものとしか思えない。身近に仲間がいることで安心したいのだろう。大勢がいる場所へ行きたがり、大勢がしていることをやりたがる。みんなと同じになりたい。同じになれると思っているのだ。
それにもかかわらず、少し違っている点に注目し、興味を持つ。違っていることに敏感だ。あるときはその違いに憧れ惹かれ、あるときはその違いを嫌って排斥する。そもそも、みんなが少しづつ違うというのに、定義や範囲を決めて、同じか違うかを区別していることを忘れてしまう。忘れてしまう理由は、その定義や範囲の中に自分を置き、自分はみんなと同じだ、と思い込んでいるからだ。
ジグゾーパズルのピースは、すべて形が微妙に違っている。同じように見えても、一つとして同じものはない。自然界に存在するあらゆるものも、それぞれ全部違っている。同じ花であっても、正確には違いがある。人間も同じ人はいない。
しかし、違っていても、それらが集まって、組み合わさって、一つの絵になるときがある。すべてのピースの中から、ほんの一部と手を結ぶことができ、それが全体を形成するときがある。微粒子が組み合わさり、あらゆる物質を形成し、またそれらが集まって、綺麗な球体の星となる。自然の構造とは、そういうものらしい。
違っているから仲間ではない、という考えはとても不自然だ。違っているからこそ仲間になれる。仲間になる意味があるのではないか。
同じであることを無理に求めず、みんなと違っていても、それが普通だと考えることで、ずいぶん生きやすくなるだろう。
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森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。
〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。